決算書(会社の1年の成績と財産をまとめた書類)をもらっても、損益計算書(1年間の売上・費用・利益をまとめた表)は一番下の「当期純利益」が黒字か赤字かだけ見て終わり——という方は少なくありません。けれども損益計算書には、売上から始まって5つの利益が段々に減っていく「階段」が書かれています。最終的な黒字・赤字よりも大切なのは、どの段の費用が利益を前期より大きく削っているかです。その段が違えば、打つべき手もまったく違います。本記事では、5つの利益を上から順にたどる読み方をご紹介します。
損益計算書は「上から下へ降りる階段」として読む
損益計算書は、一番上の売上高から費用を種類ごとに差し引き、売上総利益→営業利益→経常利益→税引前当期純利益→当期純利益と5つの利益へ降りていく作りです。一段ごとに「何を引いたか」が決まっているので、段差(各段で引かれた費用)を見れば、どの種類の費用が利益を削っているかが分かります。
5つの利益は何を表しているか
まず5つの利益の計算式と意味を押さえます。わかりやすいよう、売上高1億円(10,000万円)の架空の会社の数字を添えます(数字は説明用の例です)。
売上原価は、売れた商品の仕入れ値や製造にかかった費用。例:10,000-6,500=3,500万円。商品・サービスそのものの儲けを表します。売上高に対する割合(3,500÷10,000=35%)を粗利率と呼びます。
販売費及び一般管理費(略して販管費)は、人件費・家賃・広告費・役員報酬など、本業を回すための費用。家賃のように売上に関係なく出ていく固定費だけでなく、販売手数料や運賃のように売上に応じて増える費用も含まれます。例:3,500-3,200=300万円。本業で稼ぐ力です。
営業外収益は受取利息・受取配当金(保有する株式の配当)・雑収入など、営業外費用は借入金の支払利息などの本業以外で毎期のように出入りするもの。例:300+20-80=240万円。借入なども含めた、ふだんの実力です。
特別利益・特別損失は、固定資産(土地・建物・設備など)の売却益や売却損・除却損(捨てたときの損)、災害による損失など、その期だけ臨時に発生したもの。例:240+0-40=200万円。
法人税等は、会社の利益にかかる税金で、「法人税、住民税及び事業税」としてまとめて書かれることが多い項目です。例:200-60=140万円。当期純利益は、すべての費用と税金を払ったあと最終的に会社に残る利益です。
この会社は最終的に140万円の黒字ですが、階段で見ると粗利3,500万円のうち3,200万円を販管費が使い、営業利益は売上の3%です。
どの段で減っているかで、打ち手が変わる
ここで注意したいのは、利益率(各利益÷売上高)の下がり幅だけを見ると、原因の段を読み違えやすいことです。粗利の段で起きた悪化は、その下の営業利益・経常利益にもそのまま引き継がれるからです。
そこで見るのは利益ではなく、各段で引かれる費用の側です。前期と今期を並べ、「売上原価」「販管費」「営業外費用-営業外収益」をそれぞれ売上高で割り、前期より割合が一番大きく増えた項目を探します。なお、売上が大きく増減した期は、割合とあわせて金額の増減も確認してください。先ほどの会社(今期)に前期を並べた例です。
前期:売上原価6,300(63%)/販管費3,200(32%)/営業外の純費用50(0.5%)→ 粗利率37%・営業利益率5%・経常利益率4.5%
今期:売上原価6,500(65%)/販管費3,200(32%)/営業外の純費用60(0.6%)→ 粗利率35%・営業利益率3%・経常利益率2.4%
利益率で見ると、一番大きく下がったのは経常利益率(-2.1ポイント)です。しかし費用の側を見ると、増えたのは売上原価(+2ポイント)がほとんどで、販管費は横ばい、営業外は+0.1ポイント。最初に原因を確かめる候補は粗利の段です。
候補が分かったら、次のように考えます。
売上原価の割合が増えた:原価と値付けの問題
粗利率が下がっているなら、仕入れ値の上昇、値引きの増加、儲けの薄い商品の比率が増えた、のどれかが疑われます。原因の切り分け方は粗利率が下がる3つの原因で詳しく解説しています。
販管費の割合が増えた:人件費・家賃などの問題
粗利はあるのに営業利益が出ないなら、販管費が売上規模に対して重い状態です。内訳でどの科目が増えたかを確認します。あといくら売れば赤字にならないか(利益がちょうどゼロになる売上高)は、損益分岐点の考え方で計算できます。
営業外の純費用が増えた:借入と本業外の問題
支払利息が重いなら、借入の条件や返済計画の見直しが論点になります。逆に経常利益が営業利益より大きい会社は、雑収入(補助金・助成金の入金などが計上されることが多い)や受取利息で本業の弱さを埋めている可能性があります。一度きりの入金でないかを確認してください。
経常利益より下の段:一時的なものかどうか
特別損益は本来「臨時」のものです。同じ特別損失が毎年のように出ているなら、それは実質的には毎期の費用と見たほうが実態に近くなります。法人税等の段は税務の領域なので、節税の判断は顧問税理士にご確認ください。
時間がない場合の縮小版
人手や時間がない場合は、5つの利益すべてを読み込まなくても構いません。本記事末尾の「まずはこれから」の3項目の割合を計算するだけなら、決算書2期分と電卓があれば短時間でできます。月ごとに見たいときは、毎月数字を締めて確認する月次決算の試算表(月ごとの集計表)を使います。その出し方は月次決算を翌月10日までに出す方法を参考にしてください。決算書全体でまず見るべき数字は経営者が最初に見るべき3つの数字にまとめています。
読み間違えやすい4つの落とし穴
本業も経常利益も赤字なのに、土地の売却などで特別利益が出て、当期純利益だけ黒字——というケースがあります(保険の解約益なども、会社によっては特別利益として計上されます。営業外収益の雑収入に入れる会社もあります)。一番下だけを見ると「今年は良かった」と誤解します。上から順に読めば、来期も同じ黒字は期待しにくいことが分かります。
中小企業では、社長の役員報酬は販管費に入り、その額によって営業利益が大きく変わります。報酬を多く取れば利益は小さく、抑えれば大きく見えます。前期と比べるときは役員報酬の増減も一緒に確認し、必要なら役員報酬を足し戻した数字(営業利益に役員報酬を加えた額)で本業の力を比べると実態をつかみやすくなります。なお役員報酬の金額や変更時期には税務上のルールがあるため、変更する際は顧問税理士にご確認ください。
製造業では工場の人件費や光熱費なども売上原価に含まれますが、小売・卸売では売上原価はほぼ仕入れ値です。また外注費を原価に入れるか販管費に入れるかは会社によって違うことがあります。同じ「粗利率」でも中身が違うため、まずは自社の過去と比べるほうが判断を誤りにくくなります。
税理士の交代や経理の見直しで、同じ費用(外注費・運賃など)が売上原価から販管費へ、あるいはその逆へ付け替えられることがあります。実態は同じでも段差だけが動きます。ある段の割合が急に大きく動いたら、原因を探す前に、科目の分け方を変えていないか顧問税理士に確認してください。
よくある質問
- Q. 損益計算書と貸借対照表は何が違うのですか?
- A. 損益計算書は1年間などの一定期間にいくら稼いだか(成績表)、貸借対照表は決算日時点で会社に何がありいくら借りているか(財産の一覧)を表します。損益計算書が黒字でも現金が増えているとは限らないため、お金の動きはキャッシュフロー(実際の現金の出入り)の読み方もあわせて確認すると安心です。
- Q. 営業利益と経常利益、どちらを重視すべきですか?
- A. 目的によって使い分けます。本業の良し悪しを判断するなら営業利益、借入の利息なども含めた会社のふだんの実力を見るなら経常利益です。金融機関は経常利益を重視する傾向があると言われますが、両方の差(営業外の損益)が大きい場合は、その理由を説明できるようにしておくとよいでしょう。
- Q. 「売上総利益」「粗利」「限界利益」は同じものですか?
- A. 売上総利益と粗利は一般に同じ意味で使われます。一方、限界利益は「売上高-変動費(売上に比例して増える費用)」で、損益計算書には直接は載っていません。粗利は売上原価を引いたもの、限界利益は変動費を引いたもので、引く費用の範囲が違うため一致しないことがあります。限界利益は損益分岐点の計算に使います。
まとめ:一番下ではなく「段差」を見る
損益計算書は、売上高から売上原価・販管費・営業外損益・特別損益・法人税等を順に差し引いて、5つの利益へ降りていく階段です。読むときは一番下の黒字・赤字や利益率の下がり幅ではなく、前期と比べてどの段の費用の割合が増えたかを見る。原価なら値付けと仕入れ、販管費なら人件費・家賃などの内訳、営業外なら借入、特別損益なら一時的かどうか——と、調べる方向が絞れます。
まずは今日、直近2期分の損益計算書を並べ、「売上原価」「販管費」「営業外費用-営業外収益」をそれぞれ売上高で割ってみてください。前期より割合が一番大きく増えた項目が、最初に原因を確かめる候補です。
