最近、「子持ち様」などと揶揄する言葉がニュースなどにも取り上げられ話題となっていますが、子供の出生率が低下している日本では本来、産休・育休はめでたく取得して欲しいものですが、なぜそうならないのか?今回は、ここをまとめてみました。
マタハラの定義と背景
マタニティハラスメント、略して「マタハラ」とは、妊娠や出産を理由に女性が職場で不利益な扱いを受けることを指します。この問題は、働く女性が増える中で特に注目されるようになり、社会的な議論を呼んでいます。
日本では、女性の社会進出が進む一方で、出産後も継続して働く女性が増加しています。しかし、その背景には、家庭と仕事の両立に対する社会基盤の未発達があり、これがマタハラ問題を根強いものにしています。特に、企業文化や職場の風土が古くからの価値観に基づいている場合、妊娠を「職務遂行の妨げ」と見なす傾向があります。
また、法律では平等な扱いを保障しているものの、実際の運用面での課題が多く存在します。日本の労働基準法や男女雇用機会均等法など、妊娠・出産・育児に関連する法律は整備されつつありますが、これらが現場で十分に機能していない事例が後を絶ちません。
日本におけるマタハラ問題の現状
日本において、マタニティハラスメントは広く認識されている問題ですが、その実態は多岐にわたります。厚生労働省の調査によると、妊娠中または産後の女性が職場で何らかの不利益を受けたと報告するケースが年々増加しています。具体的には、配置転換、昇進の見送り、無理な業務の割り当て、さらには退職へと追い込むような圧力がかかることも少なくありません。
このような状況は、女性のキャリアに多大な影響を及ぼし、結果的には日本全体の労働力不足問題の悪化にも繋がっています。さらに、職場でのマタハラが原因で精神的なストレスを感じる女性も多く、これが育児や家庭生活にも悪影響を及ぼすという悪循環が生まれています。
企業における人事評価制度が妊娠や出産を理由に女性を不当に評価下げする例や、同僚からの無意識の差別的なコメントもマタハラの形態として存在します。このような環境は、女性が出産後に職場復帰する際の大きな障壁となり、多くの女性がキャリアをあきらめる原因ともなっています。

問題点:なぜマタハラは改善されないのか
マタハラ問題が根強く残る理由は多岐にわたりますが、その核心には「職場文化」と「法制度の不備」があります。まず、多くの日本企業においては、依然として男性中心の職場文化が色濃く残っており、妊娠や出産を経てもフルタイムで働き続ける女性に対する理解が不足しています。これにより、女性がキャリアを積む上での障壁が生まれ、不平等な扱いが正当化されがちです。
次に、現行の法制度にも問題があります。法律で保護はされているものの、実際にはその適用が不十分であることが多く、企業による自主的な取り組みが求められる状況です。しかし、法律違反が明らかであっても、実際に是正されるケースは少なく、被害を訴える女性が二次的な不利益を受けることも少なくありません。
また、日本の職場では「働く母親」に対する社会的なスティグマが存在し、これがマタハラを潜在的に助長しています。仕事と家庭の両立を求める女性に対し、周囲からのプレッシャーや誤解がマタハラ行為を隠蔽しやすい環境を作り出しています。
さらに、企業内での教育や意識啓発が不足している点も、マタハラが改善されない大きな要因です。職場におけるジェンダー平等や多様性の重要性が十分に理解されていないため、根本的な意識改革が進まず、具体的な行動変容が伴わないのが現状です。
改善策:企業と社会でできること
マタハラ問題に対処するためには、企業や社会全体での具体的な改善策が必要です。以下は、マタハラを減少させるための主要なアプローチです。
- 法制度の強化と適切な適用: 法律による保護を強化し、特に企業がこれを遵守するための監視体制を厳格にします。また、マタハラを訴える女性が二次的な不利益を受けないよう、匿名で申し立てができるシステムや、独立した第三者機関による調査が求められます。
- 意識改革と教育の推進: 職場でのジェンダー平等に関する教育を徹底し、妊娠や出産を経た女性に対する偏見を解消するための研修を定期的に行うことが重要です。この取り組みには、男性従業員も積極的に参加させ、多様な価値観を理解し尊重する文化を育てます。
- 柔軟な働き方の導入: フレックスタイム制や在宅勤務など、柔軟な働き方を支援することで、出産後も女性がキャリアを継続しやすくなります。これにより、職場復帰のハードルを低減し、長期的なキャリア形成を促進します。
- サポート体制の充実: 妊娠中の女性や育児をしている従業員を支援するための体制を整えることが必要です。これには、産前産後の休業支援だけでなく、保育所の設置や緊急時の子供のケアサービスなど、具体的な支援策が含まれます。
- オープンなコミュニケーションの促進: 職場内でのオープンなコミュニケーションを促し、妊娠や出産に関する話題が開かれた環境を作ることが重要です。これにより、互いの理解を深め、マタハラに対する意識を高めることができます。
様々なアクションを行うことで、働く女性が安心してキャリアを全うできる職場環境の実現が期待されます。
中小企業におけるマタハラ問題の特殊性と改善策
とはいえ、中小企業においては、人員配置が限られているため、一人一人の従業員が担う業務量が大きいのが実情です。そのため、産休や育休を取得する従業員が出た際に、その穴を埋めるための対応が迅速に行われることは稀であり、結果的に残業や休日出勤が増加し、職場全体の負担が重くなることが少なくありません。この状況は、マタハラの潜在的な原因となり得ます。
改善策の提案
- 助成金や補助金の活用: 政府や自治体が提供する中小企業向けの助成金や補助金を活用し、産休・育休を取得する従業員の代替となる臨時スタッフの雇用費用の一部を補助することが有効です。これにより、業務の引き継ぎをスムーズに行い、他の従業員の負担を減らすことができます。
- 業務効率化と自動化の推進: 中小企業特有の人手不足を解消するために、業務の効率化を図ることが重要です。特に、繰り返し行う業務や時間がかかる業務の自動化によって、日常的な作業負担を減らし、育児休暇中の職員の代わりをする必要性を軽減します。
- 柔軟な人員配置と業務の再設計: すべての従業員が多角的に業務をこなせるよう、教育や研修を行うことで、一人が休んだ際にも業務が停滞しない体制を作ります。また、短期間でも他の職員が業務を引き継ぎやすいようなドキュメントの整備や、業務プロセスの明確化が求められます。
- 職場文化の改革とコミュニケーションの強化: 産休や育休を取得する従業員に対する理解を深めるために、職場内での意識改革が必要です。定期的なミーティングを通じて、従業員間のコミュニケーションを活性化させ、互いの業務を理解し合う文化を育てることが大切です。
これらの改善策を通じて、中小企業でも産休・育休を取得した従業員の業務をスムーズに引き継ぎ、全従業員のワークライフバランスを向上させることが可能です。つまり、企業の経営とは利益を上げるだけではなく、職場環境や従業員の幸福度も考えながら実施する必要があり、産休・育休も視野に入れた人材活用を計画として織り込み、組織を継続的に進化させていく必要があるかと思います。